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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)984号 判決

控訴人 安平輔

被控訴人 有田哲哉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用を控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方代理人の陳述した主張の要旨は、左記のほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここに引用する。控訴代理人は、訴外斉藤孝に対し被控訴人がその主張のような三口の債権を有することは不知であると述べた。

当事者の提出援用した証拠方法とそれに対する認否は、左記の外は、原判決の記載と同一であるから、ここに引用する。

〈立証省略〉

理由

当事者間に成立に争のない甲第一号証の一、原審と当審での証人斎藤孝の各証言により各その成立を認めることのできる甲第一号証の二、第二並びに第三号証、及び原審と当審での証人斎藤孝の各証言並びに被控訴人の各本人尋問の結果によれば、被控訴人がその主張のように斎藤孝に対し三口合計金百三十七万円の貸金債権を有していることを認めることができ、外に右認定を左右することのできる証拠はない。斎藤孝が昭和二十八年九月二十二日控訴人に対し原判決添付目録記載の宅地及び建物を売渡し、同月三十日東京法務局杉並出張所受付第一八、三一九号でこれが登記手続を了したことは当事者間に争がない。被控訴人は、斎藤孝は右売却にさいし、被控訴人を害することを知りながら為したるものであると主張し、控訴人は右の事実を争つているが、原審と当審での証人斎藤孝の各証言及び被控訴本人の各尋問の結果によれば、斎藤孝は控訴人から東京地方検察庁に有価証券偽造、行使、詐欺、横領罪で告訴されたので、被控訴人の上記認定の債務を弁済するにたる財産が外になにもないことを知りながらも、上記認定のように上記不動産を控訴人に売却したことを認めることができ、当審証人竹内善作の証言及び乙第五号証の記載は上記各証拠に照し合わせて信用ができないし、外に右認定を左右することのできるなんの証拠もない。そうであるから、斎藤孝は上記不動産を控訴人に譲渡したについては、上記認定の債権を有する被控訴人を害することを知つて為したと認めるを相当とする。

控訴人は上記不動産を譲受けるについては、被控訴人の債権を害することを知らなかつたと主張するが、この点に関する当審証人竹内善作の証言及び原審と当審での控訴人の各本人尋問の結果並びに乙第五号証の記載は成立に争のない乙第三号証の記載と原審と当審での証人斎藤孝の証言に照し合わせて信用ができないし、右各供述をおけば、外に右控訴人主張の事実を認めることのできるなんの証拠もないから、この点に関する控訴人の抗弁は採用するに由ない。

次に控訴人は、上記不動産は相当時価で買受け、控訴人の斎藤孝に対する債権と相殺したので、斎藤孝は正常に建物を処分したのであり、被控訴人の債権を害したとしても債権には支配権能がないのであるから、詐害行為は成立しないと主張するが、たとえ、右不動産の売却が相当時価であるとしても、上記認定のように、右不動産のほかに資産のない斉藤孝が、その一人の債権者である控訴人に売却し、殊にその代金と債権とを相殺するというような行為は、被控訴人始め一般債権者の債権を害することになるから、詐害行為が成立するものと解するのが相当であり、このような場合には、債権には支配的の権能はないが、法律は債権者に対し特に取消権を認めているのであるから、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

よつて、控訴人と斎藤孝との上記認定の上記不動産に対する売買契約の取消し、及び上記認定の上記不動産に対する移転登記の抹消登記手続を求める被控訴人の本訴請求は正当であり、これを認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項により本件控訴を棄却し、控訴審での訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 柳川昌勝 村松俊夫 中村匡三)

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